2018年1月17日水曜日

087 「1時間待ちの5分診療は不適切」なんですか? (2016.06)

87. 「1時間待ちの5分診療は不適切」なんですか?  (2016.06)

当院のような診療所でも、「1時間も待たされて数分以内」ということは稀ではありません。最近、厚労省の方から一人5分以内なら支払減点という考えが浮かんだようです。この問題だけでなく、厚労省は、「物理的にしんどいことをしなかったら減点」という愚劣ともいうべき政策を取り続けてきました。それに反論してみます。能力が低いけれど真面目な医師(開業当初の小生)が30分掛けて一人の診療をやっとこなしたとしても、経験と能力のある医師なら1分でもっとしっかりとした診療を済ませることができます。一番いけないのは能力が低くて不真面目なパターンで、この場合は時間も短く内容も低い。逆に経験のある医師でも、ある患者さんの場合では診察だけで30分も掛かってしまうことがある。体制内で出世するような中央官僚は自分自身は「親方日の丸」で、現場の工夫や苦労のことが判らないし、判ろうともしないのだろうと小生は不満を持っています。

診療時間とは何か? 患者さんにとっては「診察室で医師に直接対応してもらっている時間」ということが多いのかなと思います。医師が直接関与する点であっても、診察室に引き入れる前に「問診票」とかカルテの以前の記録を読んでいる時点で始まっているのです。患者さんが診察室を出てからも、頭を再度整理してカルテに記録したり、処方内容を吟味して処方箋を発行したり、検査の場合は検査内容を吟味して書きます。つまり直接対応よりも長い時間を費やしています。小生は、開業当初から、長く待たせることが「脅迫神経症的に」嫌なので、しばしば、一番時間が掛かるカルテ書きを省略して、診療時間が終わってから書くことがあります。小生は紹介状の手紙を書く時でも、適当な長さで終える能力がなく、かなりの量の文章を書いております。相手の医師が「びっくりした」というのを何度か伝え聞きました。こういうことも査定に反映することは難しいです。理念的には、「診療の質」で査定すべきです。しかしこれは実際的・技術的には不可能です。質的査定無理です。

現在の小生の診療の実態を書いておきます。直接の診察時間は極めて短いものです。自分の得意分野では、診療のポイントが出来ているので、短時間で判断が下せるし、自分の不得意分野では、当面の対応で様子をみるか早く他医を勧めるかの判断をするので、それにも時間があまり掛からないのが普通です。内科的な患者さんの場合、診察室に入ってきた歩き方で足腰の状態をパッと判断する、顔色や表情や全体の感じをパッと判断する、ナースの付けた血圧・脈拍・体重・体温をパッとみる、必ず、下肢を触って見る(成人病や老人の診察には最重要だと思っています)、これらのうちで気になる点が見つかるとチェックします。問題がなくこれで終わったら1分で可能です。慢性疾患の定期処方を受けに来て安定している場合はそういうことになります。
臨時受診の方には、今日は「何をして欲しくて来院したか」(症状だけを聞くでは終わりません)を確かめます。問診表への記載とナースの予診でもこの「来院目的」を重視しています。なお、他の医院の処方内容や検査結果を書いてあるものがあれば、これらは必ず参考にします。小生は、最近あった検診や他院の採血データーは客観的データーであるので、尊重して(しばしばコピーします)無駄な採血検査はしません。


随分前から小生は聴診器をルーティーンでは用いません。聴診器を用いないことは全然自慢すべきではありませんが、それ程非難されることもないと思います。上述したような観察をきっちりすることの方がいい加減な気持ちで聴診の格好を付けるより、概ね確かです。聴診器を当ててはいるが、耳に差していないことを患者さんに指摘されて恥をかいた知人の医者を知っていますし、下着の上から聴診(心音や肺音は聞こえていない)をしている医者を見たことがあります。つまり、聴診はしばしばセレモニーになっています。