2018年1月17日水曜日

055 癌免疫治療実験から本当に学ぶべきことは? (2005.05)

55. 癌免疫治療実験から本当に学ぶべきことは?  (2005.05)

最近の免疫関係の実験は主にマウスを用いており、その理由は数をこなし易いことと、純系動物といって、クローン動物や一卵性双生児と同じように、遺伝的に同じ個体ばかりを揃えて免疫学的にきっちりした実験が出来るからです。この数十年の間にも癌に対する免疫治療のモデル研究がいろいろありました。その中には一連の重要な研究があり、そのモデル治療からは、もう直ぐ癌は治るのではないかと期待させるものが少なからずありました。ところが、あるマウスとある腫瘍との組み合わせで良い結果が出ても、他の組み合わせになると駄目であるということの繰り返しです。

実験腫瘍の場合は、主に移植可能腫瘍を用います。純系マウスから発生した腫瘍であるので、同じ種類のマウスに植えると増殖するので、これを阻止する治療プランを試みるのです。まず、腫瘍をいろんな条件で植えて免疫を成立させる条件を探す研究があります。ある腫瘍には放射線を照射して植えると免疫できるが他の腫瘍では駄目で、ある腫瘍では免疫補助剤と混合して植えると免疫できるのに他の腫瘍では駄目、という繰り返しです。
また、既に生着している腫瘍に対する治療実験においても種々の免疫調整薬剤や種々のファクター(因子)という生理活性物質などを駆使して見事に治ってしまう研究報告があっても、その後判ることは他の腫瘍ではサッパリ駄目だとか、その腫瘍であっても、植えてから4日目に治療を始めたら上手くいくけれど、7日目から始めるとサッパリ駄目という、そういう繰り返しの歴史です。 
研究者の方は科学的に「水準の高い」論文を多く出したいので、治療効果の出る条件を見つけると、その条件の中で集中的に実験をすることになります。しかし、それはしばしば、実験データーを出すためだけの研究になってしまって、じゃあ、実際への応用における意味づけはあるのか?と問われるとサッパリ答えられない。

ここで述べたいのは、こういう研究が無駄と言っているのではなく、私はいつも期待と不安をもって見ています。私は今も日本癌学会と日本免疫学とさらには日本移植学会に会費を払い続けているものです。腫瘍の種類やマウスの種類が変わると結果が変わってくるというのでは、現実の人間の癌に応用することを思うと途方もなく壁が高いことに気付くべきです。しかも、前号でも触れましたが、治療効果を期待して免疫処置をすると却って腫瘍の成長が盛んになるというような現象は日常茶飯事というくらいであり、私にも何度もそういう経験があります。

純系マウスに移植可能な腫瘍を植えて、期待すべき免疫治療をするとします。10匹集めて同じ治療をすると、10匹とも同じ結果になるというのではありません。ならないから10匹や5匹を一治療群としてまとめた結果を他の10匹や5匹の別の治療群の結果と比較判定するのです。しかし、よく考えると、同じ条件で処置した個体の結果がまちまちとなるのは(例えば、ある群では7匹は治るが3匹は腫瘍死する)、一般人にとって非常に示唆的ではありませんか。つまり、遺伝的に同一の純系マウスの同一処置群の中でさえ、各個体の結果は多少とも異なります。カオスの要素が内在する世界と思われます。現実の人間における癌治療を考えると、これまた途方もない不確かさに立ち竦むべきものです。

それですから、言いたいことは、「民間療法やサプリメンの推進者や業者、さらに医学博士の一部の人達よ、人間の癌に対する治療について、もし決定論的な期待話を吹いているのなら、恥ずかしくないのかな」。