2018年1月17日水曜日

024 マスクや手洗いはやっぱり意味があります (2003.04)

24. マスクや手洗いの意義は場合によると思います (2003.04)

最近は、子供の時から除菌性の繊維や金属などを使用させようとする世情であるので、雑菌の洗礼を受けずに成長するために、免疫力が弱くなって問題である、という尤もな意見が出てきています。ただし、実際にどの程免疫力が弱くなるかということも、それ程はっきりとしたデーターなはいと思います。これもイメージが先行して、実際にはそれ程弱くならないのかも知れません。いずれにしても、もともと人間はバイ菌と共存して存続しているので、無菌にしようなどというのは無理な話です。それに、大腸には雑菌が多いのですが、抗生物質でこれらの雑菌を弱めすぎると、病原菌に都合の良い環境になったりして、かえって悪いようです。皮膚の雑菌も安定共存している間は良いのでしょう。流行性の感冒が特に流行っていなければ、普通の健康人なら「食事の前はなるだけ手を洗いましょう、うがいはした方が良いかな」くらいで良いでしょう。ただし、調理の前の手洗いは非常に清潔さを求められます。直ぐに食べるのなら適当で良かったとしても、料理に細菌が付着してから時間が経てば、菌が増えたり毒素が出たりして、食中毒を引き起こす可能性があるからです。

梅毒スピロヘーター菌もエイズウイルスも一匹や十匹くらい皮膚や粘膜の傷から侵入しても病気にならないそうです。人間の受精の場合も、たとえ無精子症でなくても精子の数が少ないと、結局は不妊の形になります。動物実験の場合に、癌細胞をネズミに百個を植え込んでも排除されるが、十万個なら成長してネズミは癌死してしまうということは、その筋では良く知られた事実です(この個数は腫瘍によって差があります)。ついでながら、エイズに汚染された注射針からエイズの発病は大有りだが、鍼治療の針からの発病はあまりないだろうという意見を聞いたことがあります。注射針は中空ですからこの中に感染した血液が貯留しているが、鍼治療の針では表面にしか付着していないので、これで皮膚を貫いても体内には十分のウイルスが入らないという意見です。だから消毒は不十分で良いということではありませんが、参考になる意見です。

そこで本論ですが、空気によって伝播されるウイルス感染症に対して、普通のマスクをしても繊維の間からすり抜けてくるので意味がないという意見もあります。確かに、空気感染の因子についてはそういう点もあります。しかし、唾液や喀痰からの飛沫感染の因子を考えると、マスクにより体に入ってくる病原ウイルスの量が非常に減ることは間違いないと思えるし、要するに百パーセント阻止できなければダメだというのは感染・発病の実態を無視しています。インフルエンザの流行期においては、マスクは一番意味がある対応と思います。家に帰ってからのうがいとか、食事前のうがいについては、時間的に遅すぎて、私には意味があるようには思えません。同じように、手洗いの本質は「殺菌サッキン」ではなくて、「減菌ゲンキン」(こういう専門用語はありませんが)です。なお、「滅菌メッキン」という専門用語は「完全殺菌」という意味です。何遍も水洗するだけで容易に一万個の雑菌を百個あるいはそれ以下に減らせるでしょう。消毒液を用いなくても水だけでも物凄い効果があります。

 研究室での細胞培養では、厳格な滅菌対策が必要です。そうでないとシャーレに雑菌やカビが直ぐに生えてきます。それ程でもないが、極めて厳重にする必要があるのが白血病患者への強力な化学療法中でしょう。それ程でもないが、常識的な「防菌」(これも私の造語)対策が必要なのが普通の癌患者に対する強力な化学療法中です。もっとそれ程でもないのが普通の病気中で、もっとそれ程でもないのが普通の人です。
 
➡(注)最近までのタイトルは「マスクや手洗いはやっぱり意味があります」でしたが、
   訂正後のタイトルの方が書いてある内容に近いと思いました(2020.02)