2018年1月17日水曜日

078 ノバルティス社の降圧剤・ディオバンは問題のある薬か (2016.01)

78. ノバルティス社の降圧剤・ディオバンは問題のある薬か  (2016.01)

開業してから営業の攻勢を受けるのは製薬会社のMRという営業担当者です。N社MRのA氏は昨年退職しましたが、それまでの付き合いはもう十数年になります。小生のするサッカーの撮影に協力してくれたのが始まりで、その後ずっと市民マラソンに一緒に参加していた仲になっていました。平成25年にARB剤という分類の降圧剤であるN社のディオバンの大規模臨床試験のデーターの改ざん問題が明るみに出ました。当院においては、ARBとしてはこのN社のディオバンを使っていました。
A氏とはMR業務としてもオフとしても付き合っていたのですが、薬剤情報についてはパンフレットなどを置いていってもらうだけで、こちらからの質問があればする程度でした。会話のほとんどが小生のお喋りで、その内容はN社を揶揄するような内容でした。①同類の薬はどの製薬会社のものでも基本的に同じような効能があるに過ぎないのだろう、②何故にN社の薬に付加効能があると主張できるかというと、大学の研究者にも協力させて研究するだけの資金力があるからである、③ただ、臨床研究というのは、たとえ大規模研究であっても、基礎研究のような事象に比べると信憑性が驚くほど低いはず、④データーの信頼度はそれを担保するために参加している統計の専門家に依存しているが、その専門家はお墨付きを与えたことを自己主張し過ぎていると思う、⑤実地に当たる臨床医は「良い臨床研究で終わってほしい」という気持ちがどこかにあれば、知らないうちに素データーの扱いにバイアスが生じうる、などを執拗に繰り返し会話のネタに使っていました。つまり、もともと大規模臨床試験というのが私にはどこかに胡散臭いところを感じるのです。
ディオバン問題が明るみに出てからは、患者さんに質問を受けることがありましたが、もともと上記の①という判断でしたので、説明したうえで変更しませんでした。どれも同じとしても、シェアーが一番多いディオバンが安全性からいうと無難でもあるというのも冷静な判断であるとも説明しました。ただ、その頃からこの薬剤のジェネリック製品が出だしたので、現在は同一成分のジェネリック製品に切り替えています。
当院の開業当初、N社の売り込みの目玉は「悪玉コレステロール」を下げるスタチン剤のローコールというもので、その後は目玉がディオバンになり、現在は糖尿病薬が目玉になっています。どの薬も先発製薬会社はジェネリック製品が出る前に利益を確保しておかねばなりません。ただ、この場で強調しておきたいのは、新しい薬品の開発の恩恵は非常に大きく、患者はもとより医者も大変ありがたいのです。なお、スタチン製剤についてはもともと我が国の三共製薬にいた遠藤章博士の素晴らしい研究成果によるもので(一時はノーベル賞候補にも)、随分前に三共製薬からメバロチンという薬品で世に出ました。その後、後発品のしかも外資会社のこのローコールというのがかなりのシェアーを獲得したようですが、これが付加効能という戦略が奏功した結果であることをもってN社を揶揄していたのです。ローコールは「悪玉」を下げるだけでなく、既に生じた動脈硬化を治療する効果があるというデーターを示してPRしたのでした。
そういうこともあり、現在はどの会社のスタチン剤も、特に心筋梗塞後に用いて、基準値ラインより大幅に悪玉を低下させておくというのが、循環器学会などの専門家の方針です。自分では判断できるものではないことですが、私もそれに従っています

ARB剤の方は一般的に、心臓機能や腎臓機能(最近ではその他の臓器機能も)の保護作用があるとして重要になってきました。大きくなった心臓が小さくなることは経験しています。ただ、既に機能が低下し過ぎている場合に使うと、機能低下がより顕在化するので、投与時期の判断が重要で、これは腎機能低下患者において実際に経験しています。