2018年1月17日水曜日

036 心不全のむくみ(浮腫)と利尿剤 (2004.11)

36. 心不全のむくみ(浮腫)と利尿剤  (2004.11)

下肢や顔面がむくむ場合は、心臓機能が悪い、腎臓機能が悪い、自律神経の調子が悪い、低栄養などが考えられます。一部分だけのむくみなら、そこの部位の循環障害(静脈やリンパ管)か炎症かを疑いますが、この局所の話は止めておきます。
低栄養については血清の蛋白量(アルブミン)を測ると判断できます。この対策は栄養を改善することですが、ガンの末期や肝硬変などの場合は根本的改善は難しい。
 心不全や腎不全が原因のむくみは、最低でも、胸部写真や血清クレアチニン値などの簡単な検査を一寸すれば、大体の見当が付くものです。治療法は病状によるので一概には言えませんが、心不全について言えば、大概の「心不全」の基本薬は「利尿剤」です。
 一見して健康そうな人にむくみのある場合は、循環を調節する自律神経の不調と思われます(特発性浮腫)。特に夕方に強く出易い。これは中年までの比較的若い女性に多い。この場合も対症療法的に「利尿剤」を適宜使用すると改善します。なお、甲状腺機能低下症も浮腫(古く、粘液水腫と言った)が生じます。この対策は一番簡単で、適量の甲状腺ホルモン剤を(食事を摂るごとく)服用しておけば済みます。

利尿剤は、心不全や腎不全には状態に応じて、「ループ利尿剤」(フロセミド)または「カリウム保持性利尿剤」(スピロノラクトン)またはその併用を用います。最も一般的なのはループ利尿剤です。特発性浮腫にも対症的にこれを用います。これを用いると、血清カリウムやナトリウムが低下することがあります。降圧利尿剤という種類の薬は高血圧以外の治療にはあまり用いないもので、ここでは述べません。
 私は主に、呼吸循環担当ですので、フロセミドやスピロノラクトンという利尿剤を用いる大多数の患者さんは「心不全」あるいは「心不全予備軍」に対してのものです。「利尿剤」を処方しますと、患者さんに心不全の改善のための処方であることの認識が不十分で、「何故尿を沢山出さないといけないのか? 何度も排尿したくなるので厄介だ」という疑問や苦情を受けることがしばしばです。利尿剤を用いると、体内の循環血流量を減らすことになるので、アップアップの心臓への負担を減らして肺循環も改善して、心肺機能不全の悪循環を解消するのに良い。循環体液が減る結果、血管外体液も減って、浮腫も改善してきます。
  
 「利尿剤を用いると一日中排尿回数が多くて困る、夜間に熟睡できない」と言うのは誤解と思います。そもそも健康な若い人間は夜間に排尿などしません。心機能が低下するから、夜間尿の回数が増えているのです。心臓の機能が昼間も不十分ですから、昼間に腎臓に充分な働きをさせていないので、夜間も尿を作らないと帳尻が合わない、残業みたいなものでしょう。朝に利尿剤を服用すると、大体午前中は尿が多くなりますが、午後からは頻尿ではなくなる場合がほとんどです。夜間に多いと言うのは、むしろ利尿剤の効果が不十分かなと考えるべきです。或いは、膀胱や前立腺疾患などの別の理由が考えられます。

 午前中に外出する場合は、朝の服用を止めて、帰宅してからその朝の分を服用すればよろしいです。軽い方なら、1~2日抜けてもほとんど問題がありませんが、主治医と予め意見の交換をしておくことが望ましい。いろいろ工夫相談することにより、外出にも支障をなくすことは可能です。なお、利尿剤の飲み始めの数日は尿量も特に多いですが、安定状態(体内の余分な水分がかなり減った状態)になると最初程には尿量や回数が沢山だということはなくなってくるのが普通です。少しの期間くらい我慢して欲しい。