2018年1月17日水曜日

014 胸部レントゲン撮影は体に心配ありません (2002.09)

14. 胸部レントゲン撮影は体に心配ありません  (2002.09) 
 放射線の人体に及ぼす影響について、①癌の発生率に及ぼす影響や将来の子孫の遺伝的変化に及ぼす影響については、受ける放射線量によって何がしかの確率が増える(確率的影響)、②妊婦における胎児の流産・奇形の発生・精神発達の遅れなどの影響については、ある線量(しきい線量)以下であれば影響は全くない(確定的影響)が学問上判っています。

 レントゲン単純撮影時の大体の照射線量(mGymCv)は、頭部正面で 2.5、胸部正面で 0.16、腹部正面で 2.3、腰椎正面で 3.7、腰椎側面で 9.3、足関節で 0.21というような値です。CTでは頭部CTで 40~45、腹部CTで10~20、胸部CTはデーターを見つけられなかったのですが、胸部単純写真に比べると明らかに線量が多いのですが、他の部位のCTに比べて相当少ないはずです。これらの値は以下の内容の判断の参考になります。

先ず妊婦の話しをしましょう。胎児が奇形になるリスクは妊娠28週の間であり、精神発達障害になるリスクは825週の間とのことです。この間に胎児に 100mGyの線量が直接当たると障害が生じるかも知れないが、それ以下では大丈夫ということです。(この期間においての、より重要な問題は、現実には薬物服用やタバコの影響です。)なお、放射線が直接当たっている身体の部位以外には影響がないということで、妊婦においても子宮や胎児に直接当たらない放射線照射は胎児に心配はありません。実際は妊娠中と判れば胸部写真なども撮影しないことがありますが、それは患者さんの不安を考えてのことで、本当は一度に数10枚くらい撮影しても何ら心配がないのです。ただし、下腹部のCTや骨盤・腰椎などの単純写真などは総量が100mGy以下の線量の範囲であってもさすがに気持ちが悪いので、事情が許せばしない方がよろしいですが、絶対ダメということではありません。
        
子孫への遺伝的影響(これはもう子供を作らない方には関係のないことです)と発ガンの問題は、既に述べましたように、確率的影響であるので、「不必要な放射線はなるだけあたらない方が良い」という理念と姿勢を取ることになっています。ただし、通常撮影の線量は実際には意味がある程度のことはないということです。中でも胸部写真の線量は特に僅かなのです。ですから、この線量を恐れるあまり住民検診やその他の必要な検査をしないのは、かえって不利益であることが判っています。

医療上で放射線照射による障害が特に問題になるのは、癌治療としての放射線照射治療です。診断の場合とは桁が6つ程!!!多い量です。最近の多少問題となってきたものに、血管造影透視下でのカテーテルを用いた治療です。心臓の場合はまだ少量のことが多いようです。肝癌の治療などでは透視時間の総量が長くなって3桁の値になることがあり問題なのですが、それでも放射線照射治療に比べれば3桁ほど少ない量です。

法令による放射線の線量規制限度について、「公衆の限度」は年間1.0mCv、「放射線従業者の限度」は5年間で100mCvです。しかし「治療を受ける患者の限度」は規定がありません。それは、総合的に判断して(これが重要ですが)、必要な検査や治療は制限しない方が良いし、不必要な検査や治療はしてはいけないということです。


放射線の被爆障害を一番警戒すべき立場の人は、日頃レントゲン透視をしながら、検査や治療をしている医療人だと思われます。それでも、実際には現実的な不都合は長年出ていないように思います。