2018年1月17日水曜日

064 甲状腺ホルモン剤についての面白い?お話 (2006.11)

64. 甲状腺ホルモン剤についての面白い?お話  (2006.11)

甲状腺ホルモン(TH)は前頚部下部にある甲状腺から分泌される、新陳代謝を刺激するホルモンで、FT3とFT4の2形態が存在します。THが多過ぎると交感神経刺激状態となり、脈拍が多くなり、体温も上昇し、体重が減ってきます。THが減るとその逆(副交感神経刺激状態)になり、活力が減退して、体重も増えて浮腫んできます。

甲状腺機能異常には、甲状腺中毒症と甲状腺機能低下症があります。甲状腺中毒症は血中のTH高値の状態です。この状態の代表が甲状腺機能亢進症(バセドウ病)です。バセドウ病の治療は本邦では大抵は抗甲状腺剤内服という薬物療法の選択がなされますが、状況によってはアイソトープ療法や手術療法があります。薬物療法には治療開始後の副作用のチェックや薬剤の減量のスピードなどに若干の経験が必要です。上手くいかなければ後の二つの療法がありますので、困りきってしまうことはありません。
診断については、TSH低値(FT3・FT4高値)というデーターが揃えば甲状腺中毒症です。これにTSHレセプター抗体の陽性という所見が加わればバセドウ病の確定診断になり、通常は薬物療法(抗甲状腺剤)を開始します。TSHレセプター抗体が陰性の甲状腺中毒症は複数の病態が含まれ、私は苦手なので甲状腺専門医に紹介することにしています。その他、腫瘍の可能性があれば甲状腺専門医に紹介します。TSHというのは甲状腺刺激ホルモンといって脳下垂体から分泌されるものです。TSHの方が甲状腺機能の判定の基本になります(TSHとTHとがきっちり逆相関にならないことがあります)。
一方、甲状腺機能低下状態の中で慢性のものは橋本病(慢性甲状腺炎)によるものや、甲状腺摘出後の状態があります。この場合はTSH高値(FT3・FT4低値)のパターンになります。この甲状腺機能低下症の治療に用いるのが甲状腺ホルモン剤(TH剤)です。この薬は一応副作用の心配のない薬で、要するにTHが不足しているから補充しているだけです。毎日数錠程度(個人差あり)の錠剤を服用していれば一生普通なのです。私は患者さんに「薬と思わないでご飯と思ったら気が楽です。ご飯だって毎日食べないといけないのと同じ程度のことです」と、全く心配のないことを説明しています。

ところで、一応は甲状腺疾患がない人について考えてみますと、TSH値が基準値の中に入っていても、やや低目の場合とやや高目の場合があります。通常は薬物投与の必要はないとされていると思われます。これに関して互いに反対のような二つの考え方を書いておきます。第一に、他疾患の患者さんで受診した患者さんにおいて、甲状腺の機能が僅かに低値であった場合に(検査する理由が判らないのですが)、継続的に少量のTH剤が処方されているのを何人も知っています。その先生にそれなりの考えがあり、患者さんが理解されていたらよいのかも知れないが、本当に必要な投与なのかと疑問を感じました。第二に、低値正常の人は病気とまではいかない程度の上記の自律神経機能の振れがそれと判る程度にあるのかも知れない。ご本人の生活状況を参考にして、自律神経障害に対して少量のTH剤を投与することは合理的なこともありうるような気もする。


この話を進めると、肥満で治療効果が出ない人の悪循環脱却に、医師の注意深い管理の下で少量のTH剤を投与することはあり得る話と思いました。このことは15号に既に書いていますが、その時から4年の歳月が経ち、肥満の治療の困難さが身にしみてきた現在、やや本気に考えるようになりました。これは自分が担当して処方するということではありません。その筋の専門家はどう考えているのかなということです。この考えに類した交感神経刺激剤などの投与オプションは専門家の書物に記載されています。競技スポーツのドーピングには抵触するだろうとも思います。