2018年1月17日水曜日

080 化血研のワクチン不正製造問題で思うこと (2016.01)

80. 化血研のワクチン不正製造問題で思うこと  (2016.01)

現在、化血研の治療用の生物製剤製品の「不正製造問題」がマスコミに報道されています。化血研は当院の直ぐ近くにあり、職員の方が時々呼吸器疾患で受診されたり、試薬を頂いたこともあり、親近感を持っているので、今後の成り行きを心配しています。問題となった契機の製品は牛や豚などのワクチンなど34種類らしいですが、随分前から承認と異なる方法で製造されていたという。農水省は「安全性には問題がない」としており、品不足が生じる可能性のある10種類以外を一時的販売停止の行政処分をするということでした(1月19日の報道)。懲罰の意味が大きいという印象を持ちました。
承認を受けていない方法で製造して販売したという(特に薬品である)違法的なことなので処分の対象になるのは仕方がないようです。経営陣などの責任のある任にあった人たちの責められる点は「バレたら大変なことになるし、今や内部告発が多い世相なので、これは拙い」という認識があったらしいのに、対策を取らなかったことだと思います。従業員や関連企業に対して混乱と迷惑をかけることになりました。
こういう報道がされるや、必ず、程度の低いマスコミは化血研の製剤を用いて治療している患者にインタビューして「こういう会社の治療薬は心配です。他の会社のものを使って欲しい」というような紋切りタイプの映像を流します。ネットでも「化血研のインフルエンザのワクチンは大丈夫か?」という書き込みが溢れてくる。私なら「処分すると言っている担当省庁だって、製品自体の安全性を認めているではないか」と答えて仕舞です。国は「必要な製品は出荷を許す(本当は、「出荷お願します」です)」と言っているのです。
化血研自体も長らく対応に揺れていたと思われますが、国の方もうすうす判っていたかも知れないが対応に揺れていた可能性があると私は疑っています。告発があれば当局は動かざるを得ません。化血研は長らく国の衛生政策におけるこの方面の重要な役割を果たしている企業であり、その力量の高いことは関係者なら判っていることです。今回のような内部告発でなく、ソフトランディングできたらよかったと思います。
すなわち、30年前などに承認を通した製造方法には、その後経過とともに問題点が判ってきて、もっと良いと思われる製造方法に変更してきたのだと思われます。承認を受ける立場の化血研の方が承認を与える国よりも製造自体のノウハウをよく判っているという構図であることが「事がそんない単純でないのだぞ」ということになるのだと思います。
ここで問題なのが、国の承認には他国と比べて信じられないほどの手間と時間を要します(これには国や国民が是正すべき2つの原因があると私は思っています)。だから、この時点で、製造が結構長い期間ストップせざるを得なくなり、それは結局、化血研や関連企業の経営にダメージを与え、かつ、衛生行政の遅滞を招くということで、化血研も行政も困ったものであったのではないかと思います。「再承認を得るまでの期間は以前の製造方法ですることで仕方がないと判断すべきだったではないか」と想像するのですが、現実的に大きい壁があったのかも知れないとも、カリスマ的な強権を持つ指導者がいたら対応できたかも知れないとも想像しています。以上は、私の想像的なストーリーです。

(注)化血研は古く熊本大学が設立に関わった時代の先駆けのベンチャー企業でした。熊本の数少ない誇りの企業です。厚労省はこの問題を機に大手の製薬会社の傘下に入るように画策をしています。これが成功すると、官僚の息のかかりにくい地方の優秀な企業がなくなり、東京の権力に屈することになります。中央集権から地方分権へという時代の要請の逆行を画策しています。私は、天下り事情を疑います。「自己変革」というのは、自分も含めてですが、まことに難しい。このことについて地元の新聞の化血研支援の論調があまりにも低調であり、地元マスコミの責任を充分に果たしていないと思います。その一方で、最近、大学と企業とが協力してベンチャー企業を育てようとするプロジェクトが政府に立ち上がりました。政府自体が縦割り行政で、省益一番というのが続いています。