2018年1月17日水曜日

056 関節や筋肉の痛みは、医者よりも先ず生活の知恵から (2005.12)

56. 関節や筋肉の痛みは、医者よりも先ず生活の知恵から  (2005.12)

関節や筋肉の痛みが治りにくいということで我が診療所の暖簾をくぐって頂くのは大変有り難いですが、初期の自己対応が適切なら治っていたのではというケースが多いです。

小中高校生で膝や足首が数週間も痛いと言って受診する場合は、ほぼ全例運動の部活をしており、痛くても練習を休んだり調整した形跡がありません。本来なら、数日から1週間は痛い動作は止めておくのが常識です。兎に角、「運動をそのまま続けて痛みが治らなかったら」次にすることは「休むこと」であって、直ぐに医者に行くことではないと思います。疲労骨折などというX線写真を撮らないと判らないのもありますが、この場合も方針は休養です。「事情があって局所の静養が出来ないけど、そこを何とかうまく乗り切る裏の手はないか?」ということなら、判る範囲のアドバイスや良いと思う治療をするのですが(スポーツ障害に造詣の深い専門家に受診するのが一番良いが)、そういう考えを持って受診される方がいないということです。

中高年の肩の挙上障害(痛み、指のしびれ感を伴うこともある)についても、結論を言うと、数日ないし1週間でも痛いような動作をしなかったら、早期に軽快したかもしれません。痛くない周辺動作はした方が良いが(巧くした方が、五十肩の固定化を防止できる場合がある)、痛みを誘発する動作を無闇にしてはいけません。痛い肩のリハビリと称して肩をグルグル回す方がおられる(しかも、肘関節を伸展位で!)。これは過大の応力が肩にかかるので、肩を痛めるためにやっているようなものです。私は数年前から、肘を完全屈曲位を保って優しく肩を回すのが良いことに気付きました。これでも痛い時は慎重にすべきです。右肩が痛いのなら、不自由であるがしばらくは左腕で労作をしておくのです。
例えば、足首捻挫の静養中に、一日のうちでたったの一回グイッと悪くするような関節負荷をかけたとすると、症状はぶり返します。自己経験でも、肩の痛みも一日のうちのたったの一回であっても悪いことをすると治りが悪かった。要するに多くの関節や筋肉の痛みが治らないのは、生活の中で局所に優しくない動作を何度もしているからなのです。特に肩については寝ている時の姿勢が悪化因子である可能性があります。身体の造りは完全には平坦ではないが寝床の多くは完全に平坦である。障害のない時は問題にならなくても、障害時には問題になりうる。寝ている時は長時間であるし、痛い姿勢でも睡眠中ではそれを回避する防御反応は生じないので、ファラー位(上半身を斜めに挙げて)やクッションを利用して障害部に応力をかけにくい姿勢で就寝する工夫が良いと思います。毎日の着衣の脱着も肩痛難治の原因になります。

変形性膝関節症による痛みを伴う障害は、多くの女性の中年以後の生活の質を大きく損なうので、非常に重大な問題だと思います。整形外科的治療だけが対策ではありません。第一に「正座は膝には害悪」というしっかりした認識を持つ。第二に労作時には痛みに応じて自分に合う膝の装具(単純なサポーターは無意味)を適宜することです。この2点が重要であるのに、大多数の患者さんはちっとも耳を傾けてくれない。


こういうしつこい指導もなく、だらだらと外用薬や電気治療などのいわゆる理学療法だけなのでは適切な治療とはいえないと思います。なお、リハビリの最中での筋肉の痛みの誘発については、そのすべてが不適切なものではありません。「ズキッ」という痛みは避けるようにすべきかと思いますが、ある種の痛みを伴う治療は必要ないし仕方のないものと思います。