2018年1月17日水曜日

092 副腎皮質ステロイドによるリスクについて (2016.07)

92. 副腎皮質ステロイドによるリスクについて  (2016.07)

正しいバランスを取るために、今回は副腎皮質ステロイド(副ス)のリスクについて書いておきます。私は、「気管支喘息」における急性増悪は当然のこと、現在は遷延性の「咳喘息」にもしばしば1~2週間までの経口の「副ス」を処方しています(12号参照)。ある薬品の処方頻度が増えると、確率的に副作用の頻度が増えるのは自然の理ですが、許容を超えるような不都合な結果や、そもそも根拠の乏しい処方は避けなければならないと思っています。
「副ス」の副作用でよく言われているものについては、①感染抵抗性が減弱する、②胃潰瘍のリスクがある、③糖尿病が悪化する、などでしょうか。実際はどうかと言いますと、①は症例報告や総説などの論文において数多くの記載がありますので、無視はできません。ただ、適用や用量に気を付けて投与すれば良いと思います。原疾患における「副ス」の必要性の大小によって、その適用の拡大や縮小が判断されるものでしょう。②は相反するいろんな意見があるようですが、通常は普通の胃薬を併用する程度の対応だと思います。③は予め念頭に入れておれば良くて、対応は出来るということです。むしろ、長期投与の場合において(過敏性や自己免疫性の慢性炎症など)、「骨粗鬆症」のリスクについては(最近の骨粗鬆症対応の薬剤を併用していても)、回避が出来るとの自信はありません。
もともと免疫力低下のある方は、別の話であると思われます。特に、白血病のような場合は、有効な抗癌剤と「副ス」とが好んで用いられます。ともに有効であるといっても、いずれも免疫抑制をきたす薬品です。こういう場合でもこの2者の薬剤は用いられるのです。原疾患の治療に不可欠だからです。それで、状況によっては無菌室に収容するような対応がされることがあります。一方、膠原病の治療でいくら高用量の「副ス」を使用するといっても、無菌室に収容されるような事態は滅多にないように思います。
「副ス」はもともと体内から作られる副腎皮質ホルモン(副ホ)の同類作用の物質です。この薬をある程度の期間続けていると、体がホルモンの分泌をさぼってしまいます。「副ホ」は「ストレス学説」において、アドレナリンと並ぶストレス対応の重要なホルモンなのです。この状況でこの薬を急に止めると副腎皮質不全状態に陥り、ひどい場合にはショック(虚脱)のような状況になる可能性があります。
以上のような観点から、「薬剤情報提供書」に「この薬は急に止めないように」としばしば書かれてありますが、こういうのを「単に書き投げておくこと」はよろしくないと思います。書くのなら、「但し書き」を一緒に書いておかないと誤解の契機になるように思います。ある程度の投与量とある程度の服用期間の場合のみの話なので、そういう場合は、医師が患者さんにきっちりと説明することになると思います。咳喘息に対する短期間の治療の場合は、急に止めても好い状況です。
実は、別に「急に止めない方が良いことがある」という場合があります。それは比較的短期間の小~中用量以下の投与の場合でも、急に止めたりすると、当該疾患の病状が「ぶり返す」確率が増える可能性があると考えられます。膠原病やアレルギー疾患において、「副ス」で完全にコントロールできたとしても、そこから減薬していく場合に、徐々に減らしていっても、ある量以下に減ると、病状が再燃することは、やや常識的です。これを何度か確かめた場合には、「維持量」を設定します。私の扱うケースでは膠原病性の肺炎やアレルギー性の肺炎における治療の場合に普通に経験します。「減薬が早過ぎた」ので「もう一回投与量を増やしましょう」ということになります。急に止めた場合には、再燃がリバウンド的になる確率が増えることも危惧され、病状が急変する場合もありうることです。

話のついでに、膠原病で長期的な「副ス」を用いている人が妊娠したらどうしたら良いか、について調べてみました。端的に言いますと、原疾患の状態を安定させたままで、希望されている妊娠と分娩を産科の管理下で続けることが良いことです。つまり「副ス」を続けながら(多少減薬はするかも知れないが)ということです。産婦人科専門医の書いたものによりますと、詳細は別にしてプレドニン(5mg)換算2~3錠なら妊娠初期から服薬が続いていても特に心配ないということです。