2018年1月17日水曜日

026 イメージ先行の宣伝文句には先ず疑うことから (2003.04)

26. イメージ先行の宣伝文句には先ず疑うことから  (2003.04)

アルカリ食品: 一世紀も前の大昔に、ドイツの学者が食品をアルカリ食品や酸性食品などに分類したとのことです。食品を焼いて残った灰のPHを測定して分類したとのことです。人間の体で代謝される実態とは全然異なる乱暴な分類です。そもそも人間の動脈血のPHは7.40辺り(生理学的中性)の狭い範囲に調節されており、あまり変動させないための調節機構が備わっています。食品の一寸した摂取によって血液をアルカリにするなど無知な発言です。特に細胞レベルではアルカリに傾いた環境は酸に傾いた環境以上に毒です。研究室の細胞培養では、環境が過度のアルカリにならないように炭酸ガスを常に補給している程です。分類上で肉が酸性で植物がアルカリ性だというのが、この分類の信用を惹き付ける所以と思われます。しかし、肉ばかり食べると余り良くないと言えば済むことで、アルカリとか酸とか言うことはないのです。

天然は良い、植物は優しい: 出鱈目が直ぐに判ります。毒キノコは天然で植物ですね。これで仕舞いです。劇薬の多くはもともと植物由来です。ケシ、トリカブト。動物にもフグや蛇の毒があり、挙げるのも阿呆らしいです。多くの西洋式の医薬品は植物の薬理物質(そのままでは多くは毒物)を研究して、物質を同定して、そして毒にならないような形や量を工夫して世に出してきました。兎に角、自然はいつも優しいということはありません。

血液がドロドロ、ネバネバ: いずれも表現が過激ですねえ。サラサラと対をなしています。前者は濁っている感じ、後者は「粘性」のようです。実際は、コレステロールが高いことを指している場合もあるようです。「易凝血凝固性」つまり「血液の固まり易さ」のことを指している場合もあるようです。つまり、このうちの何を言っているかがそもそも曖昧です。例えば、コレステロールが高くて血栓が出来易くなるのは、血管内皮やマクロファージとかいう細胞とかを巻き込んだ複合的な反応によるようです。それを言いたいのなら、単に「血液のコレステロールが高い」のは動脈硬化を進行させるリスクがあると言えば済みます。兎に角、自分の意見を強調するためや、健康食品を売ろうとするための表現ですが、性根が悪い表現と思います。
 なお、食生活様式によっては血液が固まり易くなることはやはりあるようです。欧米人は日本人に比べて手術中でも出血が止まり易く、外科医の苦労が少ないと聞きました。欧米人をじっと臥床させておくと、しばしば下肢の静脈血栓症が生じて、それが肺に飛んでいって肺梗塞という危険な病気になることがあります。エコノミークラス症候群ですね。日本人にも次第に稀ではなくなってきているようです。


医学博士: テレビでも雑誌でも医学博士が出演して意見を言うと、それだけで本当だと信じるのも単純過ぎます。博士は限られた領域の研究で、一応の基準に達したと認めたという制度です。中でも医学博士は多くの医師が研究の手ほどきを数年間だけ受けて取得するという粗製濫造で問題となってきました。たとえ、まともな理学博士や医学博士であっても、おっちょこちょいな性格ではないとの保証をする称号ではありません。年齢を経て頭が変になることもあるかも知れませんが、博士号は一旦取得すると剥奪されません。テレビでも一見して怪しげな博士が多いと思いませんか? 同じく大学教授も人格者だとか宣伝はしないだとかの保証をする職ではありません。大変尊敬に値する方も当然多いのですが、非常識だけでなく頭まで悪そうな方もまた当然おられます。こういう私は、上記のように、4年間の博士課程を修了して医学博士を得た輩の一人です。