2018年1月17日水曜日

072 交通事故(ムチウチ損傷)とカラー装具 (2007.07)

72. 交通事故(ムチウチ損傷)とカラー装具  (2007.07)

当院でもムチウチ損傷(外傷性頚部症候群)の症例を結構多く経験しました。一般診療所なので全てが軽症に分類されるものです。非常に軽症で受傷時にどうもなかったとしても、翌日には項部(後頚部)や肩に凝りや張りや痛みが出現する場合が多く、翌日以後も無症状なのは、10人中で1~2人です。翌日からの症状が一旦出現すると、その後数週間~数ヶ月以上はうっとうしい生活になるので、受傷当日に症状がなくても、仕事は臨時に休んで頚部を静養させておくのが、本当は一番良いと思います。現実的には難しいらしいですが。

重い頭部を比較的細い頚部の骨と筋肉で支えているおり、頚部の筋肉は収縮と弛緩の微調整を繰り返しており、始終負担がかかっています。そのことは、健康な時にはなかなか気付かないのですが、怪我をしたら判ります。「ムチウチ」や「寝違い」で頚部を損傷した方はご承知と思いますが、首を回しても曲げても痛いし、咳をしたり、ひどい時には喋ったり飲み込んだりする動作でも響いて痛いことがあります(私自身に、この経験があります)。どの筋肉でもそうですが、損傷したのに愛護的な対応をせずに容赦なく使うと、なかなか治らないし、しばしば悪化していまいます。頚部については立位や座位を続けていること自体が、酷使しているということです。これに対する対策は、簡単な「頚部の保護装具(カラー装具)」です。追突事故などに遭ったら、症状の有無に関わらず先ず「装具」をすることを私は勧めています。

「装具」を装着すると、先ず、重い頭部の重量を顎と「装具」を介して鎖骨付近の上胸部で支えさせることになり、頚部の免荷になり頚部の筋肉を休養させることになります。「装具」を装着すると首を左右上下に回す動作に支障を来たし、日常生活が不便になります。こういう不都合から「装具」を忌避する方がいますが、この不都合さと筋肉の休養とは表裏一体なのです。不都合を避けることを優先した場合は、ムチウチ症状の悪化や遷延を覚悟しなくてはなりません。

「「装具」はなるだけ続けない方が良い」という意見を無責任に言う人が多いようです。そういう人々には自分の発言に責任を取れる程度の経験や見識を持っているのか疑問です。装具全般的に言えることは、「した方が良い間は続けるべきで、しないで良い時期が来たら外していく」のが正解。その時期は当然の事ながら各人の状態や症状によって違うし、ご本人と主治医との協議によって決めていくことです。装着期間でも、時々ははずしたりしてチェックしたりします。次第に症状に応じてご自分で脱着のパターンを自己調整していくようになります。私は、受傷後数日は就寝時には外さない方が良いと思います。どうしても不都合ならば外せば良いのです。睡眠時は知らない間に頚部の負傷を悪化させるような動きを何度もしてしまうリスクは高い。逆に昼間は受傷早期でも時々なら外してチェックしても良いと思います。「枕はしない方が良い」という無責任な意見も多い。高い枕はしない方が良いのですが、自分が楽な程度の低目の枕が良いでしょう。枕なしはかえって悪化の原因になる可能性があると思われます。どのことも予め決めつけるのではなく、体験して調整していけば良いと思います。


軽いムチウチ損傷は、「大病院や整形外科病院には行かなかった方が良かったのではないか」と思われるケースを見掛けます。本格的な疾患の患者の中にこういう軽症患者が混じっていると、医師の関心が希薄になり勝ちです。関心が物事の最初です。軽症のムチウチのその後の経過についても関心がないと私には思えます。だからカラー装具を考えてあげないのだと思います。「湿布と痛み止めだけ」というのをよく見掛けます