2018年1月17日水曜日

038 「高齢者の内服薬が多過ぎる」への弁明と副作用のこと (2004.11)

38. 「高齢者の内服薬が多過ぎる」への弁明と副作用のこと  (2004.11)

「何で若者にこんなに薬が多いんだよ!」と言われれば、「そりゃあ、ごもっとも」と思いますが、結論を先に言いますと、やはり、高齢者だから多くなるのです。
秦の始皇帝は不老長寿の薬を、世界のあちこちに部下に探しに行かせたらしいですが、その始皇帝が手に入れられなかった不老長寿まがいの薬くらいは、現代の日本人は日常的に手に入れた状況だと思います。動脈硬化の進行という老化と不即不離の状態をなるだけ遅らそうという薬剤もそういうものだと思います。降圧剤とかコレステロールの薬とか、糖尿病の薬剤がそうです。
幸いにして、高齢になってもそれなりに元気で生活できていると、潜在的にも顕在的にも身体の不都合がチェックされるポイントが増えてきます。老化が関連する病的な状態を改善しようとすると、次第に薬が増えてくるのは当たり前のことです。

例えば、心不全の薬などの場合は、「現実に薬で若返っているではないか」という実感が私にはあります。心不全と言いますと、以前は心臓弁膜症や先天性心奇形などの比較的若い時から問題となることが多かったのですが、最近の心不全の多くは、敢えて言いますと長生きしてきたから心臓が弱ってきたと受け取られる状況が主なものになってきています。中には、心筋梗塞後の心不全や老化現象による弁不全による心不全がありますが(これも、多くは老化に関しているといえます)、特別の病名を付けにくいような心臓の筋肉が弱っているという風な場合が多いのです。まさに老化現象です。心不全ではむくみ、動作時の息切れなどが生じますが、大概は利尿剤1剤でも服用してもらうと体調が良くなり、比較的良い状態で長寿の生活を送って頂けるのです。将に若返りの薬以外の何なのでしょうか。

しかし、薬はやはり副作用が起こる可能性があります。副作用は、滅多に起きない場合と時々起きる場合があり、起きたら止めたらそれで済みという場合と、起きたら特別のケアをしないと心配という場合、起きたらとても大変という場合、などがあり得るのですから、大事な話であります。副作用は患者さんが実に困り、医師は全然困らないというのでは決してありません。確かに医師にその副作用はでませんが、心身ともに物凄く影響を受けます。実際に、私ども医師の仕事をしていて一番避けたいのは副作用です。余り薬を使わない方が医師の側からは無難と言えます。

他方で、現代に揃っている薬のラインナップというのは実に素晴らしいものです。これを正しい診断と正しい適用のもとに用いることは医師の義務であると思います。医師のリスクからすると、薬をあまり使わない方が無難ということになりますが、患者さんの不都合な病状を可及的に改善したいという気持ちは大事にしないといけないと思います。
しかし、そういう学問的に素晴らしいはずの薬も、しばしば人間に使うと、言うほどの効果もなく、副作用が問題になって発売早々に使われなくなった薬も結構パラパラあるのも事実です。発売前に種々のバリアーを超えるチェックは受けたはずなのですが。それで、私は、全く新しい種類の薬は1~2年は入荷しないようにしています。

さらに、安定して広まっている薬にも、確率的にも副作用は起こり得えますし、私ども医師の判断が悪かったら出易くなりますので、気を付けようと思っているところです。薬が多いと、それらの相互作用で副作用が出易いこともあります。そういうことを懸念する場合は、注意しながら併用する場合や、仕方なく片方の薬は断念してしまう場合もあります。薬剤によっては時々、薬剤の血中濃度をチェックしています。