2018年1月17日水曜日

011 喘息治療におけるβ刺激剤吸入療法の具体的なお話 (2002.07)

11. 喘息治療におけるβ刺激剤吸入療法の具体的なお話  (2002.07)

私は開業する前に、1年間京都桂病院呼吸器センター部長という職を頂いて、手術の傍ら呼吸器内科の経験をもしました。在職中に、大塚製薬がβ刺激剤(気管支拡張剤の一種)のハンドネブライザー(メプチンエアー)の吸入指導のビデオ作成をセンター長の池田貞雄先生に依頼がありました。ビデオの中では後輩医師が医師役と患者役で好演し、池田先生が解説しています。このビデオは待合室に置いてあり、貸し出しが出来ます。私も開業してから具体的な吸入方法の実演を大切にしています。この吸入薬は喘息治療の重要な柱の一つです。
患者さんの実演のチェックも重要です。他院から転医されて来た患者さんに、私の目の前で吸入を実際にしてもらいますと、多くの患者さんは余りにも下手です。そして「吸入は効かない」と言っています。要するに吸入器を渡すだけで実演をしつこくしていない現状が結構あるのを知りました。これでは充分な効果は期待出来ません。

さらに、吸入のタイミングも不適切な実態が多い(メプチンエアーは有症状時の頓用が一般的使用です)。患者さんは息苦しくなっても「もう少し悪くなるまで我慢しよう。何しろ余りしない方が良いらしいから」となって、必要な時に吸入せずに重症になることが多いのを知りました。副作用を一方的に強調する愚を犯す世相であるので、こういう現状は非常に多くて私は呆れ返っています。正しい指導は「ちょっと息苦しくなったら早目にして下さい。その方が早く改善して、結果的に吸入量が少なくて済みます。効果があり、動悸や震えが出なければ多少の繰り返しは構いません。重症になったら効きが悪くなります。効かない時は病院に行くタイミングです。しかし、とことん酷くなる前の時間内に受診するのがコツです」であります。

β刺激剤は内服薬でも吸入薬でも時々、動悸・指の震えの副作用があります。例えば「吸入薬は何回までOKか」「吸入間隔はいくら以上ならOKか」という質問があれば、個人差が大きすぎて答えられません。因みに、製薬会社の注意書きには「原則1日に4回(8吸入)以内を守る」です。実際には1回の吸入で動悸などの出る人がいますが、この場合では以後この吸入療法はこの人には断念します。逆に、多少繰り返し吸入しても副作用を感じなかったら、やり過ぎでなかったと考えられます。動悸や震えを感じながら繰り返す人がいましたが、これは危険な可能性があるので、私は厳しく注意しています。兎に角、それ程吸入回数が多い場合や吸入が効かなくなったということは、その時点で吸入のみでは不充分であるという結論が出ているのであり、有効な治療を放棄しているということで、大変に危険です。ステロイド投与や酸素療法が必要な可能性があり、絶対に早期受診のタイミングです。


最近は吸入ステロイド継続使用の普及により喘息の管理に飛躍的な進歩があります。昨年「第1回町医者会」というプライベートな会合が京都であり、主宰の泉孝英京大名誉教授(呼吸器内科)が招待してくれました。出席者の多くは泉先生に繋がる喘息専門医でした。小生は本来は部外者でしたが、免疫の研究のつながりがあり、個人的に可愛がっていただいたものです。世話人に中島明雄先生という方がいましたが、下関の済生会病院の呼吸器科部長の時にこのステロイド吸入治療を日本に最初に臨床導入したそうで、その結果沢山外来に来ていた喘息患者さんが著明改善して再診数が減り、呼吸器科の採算が悪化して、責任を取って辞職して、今開業されているという、冗談話を泉先生が披露していました。患者数が減ったことは本当らしいです。当院の外来でもステロイド吸入の積極的導入をしているうちに、長く苦しんでいる患者さんがほとんどなくなりました。