2018年1月17日水曜日

053 胸部レントゲン写真について知って頂きたいこと (2005.06) 

53. 胸部レントゲン写真について知って頂きたいこと  (2005.05)

胸部単純写真(CXR)は、胸壁(筋肉や骨など)・胸膜(肋膜)・肺・心臓・縦隔などの情報が得られる画像診断です。CXRは大量の空気を含む肺が映ります。天然のマイナス造影剤とも言うべき空気があるので、単純写真であるにも拘らず非常に情報の多い画像です。頭部や腹部や四肢のX線写真を見れば判るとおり、単純写真では明確に読めるのは骨や消化管内の空気くらいのものです。骨はカルシウム(金属の分類)という天然のプラス造影剤を含んでいます。肺には空気が非常に多いのでX線の透過率が大きく、以前に述べましたように(14号参照)、他の部位のX線写真の10分の1以下の照射量しか必要ありません。腹部や腰椎のX線写真を1枚撮影すると、CXRを15~20枚撮影したのと同じ線量を浴びる計算になります。

以下は、主に肺疾患についての話です。実を言いますと、聴診器で肺音を聴いても肺炎が起こっているかどうかは判りません。もちろん、聴診器は無意味かと言いますと、そんなことは決してありません。しかし、肺炎でも聴診で正常と思える場合があり、CXRでやっと判断できることは多いのです。一方、喘息のように聴診でゼーゼー言うのに、CXRであまり変化がないこともあります。なお、僅かの肺炎はCXRでも判然とせず、CTで初めて読影することができる場合があります。咳・痰などの風邪症状で受診された場合に、全例にCXRを撮影することは医療経済性からは多少の問題があるかも知れませんが、不都合であるとも言い切れないでしょう。そういう方針の病院はあります。実際上は、患者・医者のどちらかが念のためにCXRを撮るのが良いと(虫の知らせであっても)思えば、CXRでチェックするのが良いと思います。私の側からしますと、肺の聴診の音が変だとか、呼吸状態が悪いとか、咳が1~2週間以上も続いているとか、があれば撮影をしようと思います。

肺癌については、聴診で異常が判ってCXRを撮影するという場合はむしろ稀でしょう。咳、血痰などの自覚症状のチェック目的や、定期的検査としてや、他の検索のためのCXRで偶然に見つかることがほとんどです。つまり、肺の異常は喘息などは別にして、CXRを撮影せずに診断できることは困難だと思います。ところで、「昔の名医は聴診器ひとつで微妙な変化を聞き分けて診断を付けていたのに、今の医者は聴診器の聴き方が不十分で、CXRに頼り過ぎではないか」という意見がもしあればどうでしょうか。結論は、やはり、総体的にはそういう今の医者のほうが格段に誤診が少ないことは間違いがないでしょう。昔の名医の指導者がCXRをせずに「この音はこういう病気である」と教えた場合に、教えられる側の医師は「ああ、そうですか」という他はないので、真偽の程の検索は難しい場合もあったのではないかと想像します。


ただし、CXRの画像の深い読影にはかなりの経験が必要です。専門の医師が読影しても、やはり曖昧なところが残ることが多い画像です。それで、公的な住民胸部検診では、数人の専門医がダブル・トリプルのチェックをしているのです。それでも判断の難しい場合に、診断のより簡単なCTの出番があるのです。CXRの方がCTよりも読影は難しいことをよく理解して頂きたいと思います。人間ドックや検診や他の医療機関でCXRをチェックしてもらったといっても、読影する医師はたった一人の肺の専門外の人という場合も結構多いということをお忘れなく。必要な場合はCXRを連日撮り直す場合も稀ではありませんし、不都合でもありません。肺の術後とか肺炎や呼吸不全や心不全の不安定時期などや医療機関を変えた時などは、その都度のCXR検査が必要です。