2018年1月17日水曜日

058 体位の選択が薬物以上に病状を改善する場合がある (2006.07)

58. 体位の選択が薬物以上に病状を改善する場合がある  (2006.07)

病気や体調の悪い時にどういう姿勢や体位をとるのが良いのか。たとえ確固たる知識がなくても、自分の症状が改善する姿勢を探すための工夫をしたらよいのですが、そういう試みをしていない人が多いと思います。以下に、参考意見を書きますが、やはり最終的には本人の症状などが改善する場合が、その時には、正解だと思います。

ショック状態の時はとにかく臥床・・・血圧が急に下がり過ぎた時は、意識もはっきりしなくなってきます。兎に角、頭位を水平にしたり下肢を挙上して、脳の血流を維持したり心臓への血流還流を維持するようにします。採血や注射の時に、或いは排便排尿の際などに、自律神経反射で脈が遅くなり血圧もストンと下がることが一番多いと思います。子供でも生じることがありますが、超高齢者に向かうに従って生じやすくなります。有効といわれる薬もありますが、直ぐに臥床させるのが正解で(座位でもだめです)、大抵は救急薬品を用いる前に改善します。自宅で意識がなくなった場合でも、先ずは寝かせることです。

心不全・呼吸不全・咳発作の場合はファーラー位といって上半身を斜めに挙げる体位をとります(完全な座位のことも)。ゼーゼーいって息苦しくなった時は、心不全か呼吸障害です。呼吸障害でよくあるものは喘息発作ですが、肺炎、その他による肺うっ血もあります。肺うっ血状態では肺が充血してガス交換障害が起こり、原疾患との悪循環に陥ります。心不全も左心機能の障害が度を超すと肺うっ血になります。肺炎・気管支炎・喘息(これもある種の気管支炎です)などの状態では、軽い場合でも、全て気管支や肺の血流を減らしてやると状態が良くなります。
指に切り傷を受けるとズキズキ疼きますが、指を挙げておくとズキズキは減ります。足関節にひどい捻挫をしても、下肢を挙上しておくと腫れも痛みも軽減します。これと同じで、急性期には患部の血流を減らすことが症状を軽減するのです。咳発作も同じで、気管支などの血流を減らすことにより症状はかなり減ります。喘息や咳のひどい場合に、「本当はちゃんと横になっていた方が良いのだろうが、仕方なしに座っていた」というのは間違いで、座っていることが良いのです。風邪を引いて夜間の咳で困る場合は、ファーラー位になるだけの方が、鎮咳剤を服用するよりよっぽど有効のことがあります。

眩暈(めまい)の時は眩暈を誘発する頭位を避ける・・・もっともありふれた眩暈は耳の奥の内耳の機能障害です。私は、脳障害に起因するような他の症状もなく、診察上で普通の眩暈であろうと思われる場合は(ほとんどがこれです)、ご本人のご希望が別になければ、最初からは頭部のCTや耳鼻科や神経内科への紹介はせずに、自分で薬物投与してフォローすることから始めます。しかし、聴力障害も加わっている場合は直ぐに耳鼻科病院に紹介します。突発性難聴という副腎皮質ステロイドの投与が遅れると聴力の回復が望めない場合があるからです。眩暈だけの場合でも経過中に他科受診を勧めることは時にあります。私の扱う多くの眩暈は内耳の機能障害で、循環障害ないし自律神経障害という受け取り方が適当な場合が多いと思っています。顔を左に向けると眩暈がひどくなるとか、臥床や座位では良いのに起床の際に眩暈が出るとかのことが多い。薬も悪くはありませんが、先ずその誘発頭位を避けるようにするのが第一でしょう。➜(注)慢性眩暈の専門的な治療はこの対応とは異なる方針があるということです

頚腕症候群の場合は、就寝する姿勢をファーラー位にしたり、肩や頚部にクッションを上手に使う試行錯誤を・・・就寝は悪い姿勢(痛い)への防御反応がないのも悪化の機会です。