2018年1月17日水曜日

010 喘息は合理的な実践治療によりかなり上手くいきます (2002.07)

10. 喘息は合理的な実践治療によりかなり上手くいきます  (2002.07)

最近の7~8年の専門学会の治療ガイドラインにより、大方の気管支喘息の治療法は解決された感があります。喘息治療の目標は最低死なせない、最低の次は入院する程悪化させないことになっています。兎に角、悪化しかけた時に早めに手を打つことがコツです。

喘息がアレルギー反応であれば、その原因物質である抗原を除去するという方針となります。当該抗原から容易に隔離可能ならこれは確かに良い方法です。花粉吸入などの季節性の場合は季節の悪い時だけのメリハリ治療になります。しかし、喘息の大部分は花粉に限らない一般吸入抗原です。私の場合は、飼っておられるペット動物に対するアレルギーが陽性ならば、飼うのを止めるよう指導します。頻度の高いハウスダスト・ダニ・カビなどの場合は、部屋の掃除をしっかりするなどは今でも大事な方針ですが、完全に除去するのは無理でしょう。さらに言えば、アレルギー体質の人は複数の抗原に対しての反応性があることが予想され、かつ全部の解析は不可能だし、抗原の完全除去も困難です。よく考えてみると、その抗原に過敏な反応性を持つその体質の方が問題であると言えます。
その過敏反応性を直接是正する目的で「減感作療法」があります。これは当該抗原の液を次第に増量しながら皮下注射していって過敏反応性を消失させるものです。観念的には決定版です。しかし、月に2~1回を数年以上の継続することになり、手間がかかることと、抗原を全て同定できないこと、自然の病状変動もあって効果が曖昧なこともあり、最近では重要視されていません。個々には良い人もあるでしょうが。生活改善療法や心理療法などは煩雑な上、効果はやってみないと判らないのが問題です。

従来から変わらない治療のひとつは気管支拡張剤(テオフィリンとβ刺激剤)の投与です。急に悪くなる時はβ刺激剤吸入かテオフィリン点滴やアドレナリン注射で凌ぎます。これは発作時には必要な治療ですが、以前はその都度病院に行かねばなりませんでした。10数年前からはβ刺激剤のハンドネブライザーが導入されました。必要時に自己吸入出来るようになり、これは画期的な進歩です。ただ、この吸入のタイミングと回数のコツが問題で、「しなさ過ぎ」と「し過ぎ」の間違いがあります。この種の吸入薬での死亡事件についてのことは、マスコミで有名になりましたが、冷静に解析すると全部が副作用による死亡ではなく、有効な治療を怠った喘息死の場合が極めて多いと私は思っています。重症時にはこの薬剤の吸入は無効になり、直ちに医療機関で重症度に応じた治療をしないと危ないのです。

しかし何と言っても、原因の炎症をとにかく強力に押さえ込むという方針の徹底で、最近では喘息を安定した状態に保つことが容易になりました。悪化時期は点滴や内服での副腎皮質ステロイド投与が非常に有用です。本薬剤の全身投与も短期では副作用のことはほぼ心配ないと思われます。悪化し易いケースの安定時期はステロイドの自己吸入療法による維持が基本方針で、長期投与でも全身副作用はあまりないようです。抗アレルギー剤は一種の抗炎症剤ですが、喘息には言うほどの効果がない場合が非常に多いと私は感じています。


喘息の治療は個々の患者さんのその時々に応じて、上記のあらゆる組み合わせが可能です。しかし、今後の治療法の中心はβ刺激剤(吸入)とステロイド剤(吸入)になるでしょう。英国と米国ではかなり以前からそうなっています。吸入薬は局所へ薬剤を集中させて全身への影響が少ないので理に適っています。また、確実な効果のあるこの2種類の薬剤の組み合わせも理に適っています。➜(注)現在はその通りになりましたが、副腎皮質ステロイドがより重要となっています(90号参照)。