2018年1月17日水曜日

012 咳が2~3週間も続いている場合は何だろう (2002.07)

12. 咳が2~3週間も続いている場合は何だろう  (2002.07)  
咳が出て直ぐに肺癌の検査をするのは正しいとは思えません。先ずは、風邪症候群として診療していくのが標準です。しかし、咳が数週間も続けば、胸部写真を撮るべきです。そうしないと、重要な疾患を見逃してしまう可能性があります。

咳で風邪症候群となると、部位的な病名は喉頭炎・気管支炎でしょう。「気管支炎です」と言うと重症と思ってびっくりする人がいますが、肺炎ではないという程の意味です。喉頭炎ではないという程しっかりしたことでもないのです。要するに「咳の風邪」です。胸部写真ではっきりした肺炎の影はないということです。喉頭炎の場合は声枯れでそうと判断しますが、耳鼻科が得意な領域です。その他は、呼吸器内科の方が良いと思います。

長引いた咳は、①風邪をレベルでなくて肺炎である、②風邪の治り難い原因がある、③アレルギー疾患、④気道の自律神経障害ないし心身症、⑤肺癌や肺結核など、⑥その他原因不明の肺疾患、⑦肺気腫、⑧胸膜炎、⑨心不全、のうちのどれかでしょうか。①と⑤⑥⑦⑧⑨は臨床経過と胸部写真などから見逃すことは稀でしょう。④は他の疾患が考え難い時で、雰囲気でそれらしいという場合ですが、適切な薬剤で軽快することにより診断が強化されることが多い。残りの②と③が注目です。

案外②と思われる場合が多い。例えば、学校の先生のように話すのが多い職業や、煙草、アルコール、入浴、運動、激務などを続けており、常識的な療養を全くしていないというような状況です。例えば、問診で煙草を吸い続けていることが原因ではないかと指摘しますと、「いつもは煙草を吸ってもそんなに咳はでないのに、そうかな?」と本人はそれが影響を与えていることに気が付いていないことが多い。私は次のような説明をして、風邪の間くらいは禁煙を勧めます。「あなたはいつもは走っても足が痛くなることはないでしょうが、もし捻挫をしたら歩き続けただけでも、痛みはなかなか治りませんよ。それと同じです」。ちゃんと療養していたら、医療費も要らなかったかも知れないです。ただ、なかなか仕事に穴をあけたくない社会事情もある場合は、難しいですね。しかし、煙草や学生の部活などが原因の場合は本人の了見が悪いということでしょう。そのうちに①になってしまうかも知れません。

最近③と思われる症例が多いです。微熱があっても風邪とは限りません。アレルギー炎症でも自律神経障害でも僅かの熱が出ることがあり得ます。高熱が出た場合でも、風邪を引いて、その結果、気道の過敏症が誘発された場合もあり、風邪と重なっている場合もあります。しかし、典型的には発熱もなく、だらだら咳が続いている場合です。アレルギー以外では説明がし難い。鼻にアレルギー性鼻炎という疾患があり、細い気管支に気管支喘息が結構多いのだから、その間の咽頭、喉頭、気管や太い気管支にアレルギー性炎症が稀であるはずはありません。多くは広い意味での「アレルギー性気管支炎」です。「咳喘息」や「アトピー咳」という概念もあります。気管支について言いますと、太い気管支に炎症があると咳が主で、細い気管支に炎症があるとゼーゼーや息苦しさです。もともとアレルギー性鼻炎などがある場合や、採血検査のデーターで診断が強化されることが多いです。そう言えば実は咳だけでなく、夜間は一寸息苦しいことがあるとか、少しヒューとかゼーの音がするという場合がかなり多いので、診断に困らないことが多い。治療は短期間の副腎皮質ステロイドの内服で著明な効果を示して、長引かない場合が結構多いです。他の薬剤(いわゆる鎮咳剤)の効果は不確実です。