2018年1月17日水曜日

007 糖尿病の治療では薬は食事運動療法の代用にはなり難い (2001.03)

 7. 糖尿病の治療では薬は食事運動療法の代用にはなり難い  (2001.03)

現在、日本の糖尿病患者数は700万人以上、予備軍を加えると1400万人といわれます。長年高血糖を是正しないと、種々の合併症や動脈硬化の進展を来たします。「網膜症」による失明は年間5000人で、成人における失明の原因の第1位であり、「腎症」によって毎年7000人が新たに人工透析導入されており、その透析の原疾患の第1位になったと思われます。また「神経障害」による異常知覚や自律神経障害で長年苦しむことが多い。日本人の大多数は、ある程度インスリン分泌の保たれているインスリン非依存性(型糖尿病)のタイプですので、これについて述べます。

同じ動脈硬化の危険因子である高脂血症や高血圧症自体のコントロールは、たとえ生活改善が不十分でも、多くは薬物療法で是正可能であります。しかし、糖尿病は現在のところこれが難しい。生活療法、つまり運動療法と食事療法に依存する比重が非常に大きい。ただ,軽症の場合は適当な生活でも、或いは適量の薬剤使用で上手くいくことがあり、その場合はその生活でよろしいということです。

糖尿病の実体は膵臓からの「インスリンの分泌が不十分」であることと、インスリンの信号を受ける側の肝臓や筋肉を含む細胞のその信号を受ける構造(レセプター)が減少したり鈍感になること(インスリン抵抗性の増大または感受性の低下)が「悪循環」を招くことです。そもそも、インスリンは各細胞が血中のブドウ糖(身体の燃料、石炭と同じ)を燃やしてエネルギーとして利用する際に必要なホルモンです。糖尿病では各細胞がエネルギー不足になるというのも大変問題ですが、利用されない血糖が血中にあふれる(高血糖)ことも問題で、これらが複合的に合併症を引き起こします。

現在の薬物の主なものはインスリン不足を改善するものです。インスリンを直接補給する注射薬と膵臓のインスリン分泌を刺激する内服薬(血糖降下剤)の2つです。しかし高血糖が続くと、インスリン抵抗性も増大して来て、血液に十分濃度または高濃度のインスリンがあるようになっても、高血糖が改善されないことが多いのです。しかも、血中インスリンの高過ぎる状況が続くと、これがまた心血管障害の危険因子になります。
  
さて、血糖コントロールが上手くいっていない場合についての結論です。この厄介なインスリン抵抗性を改善するのに「運動療法」は大変重要です。運動療法は単にカロリー摂取過多を帳消しにするだけではないということです。一方、適正な「カロリー制限」が非常に重要です。つまり、両方ともとても大事なのです。
一方、膵臓からのインスリン分泌が血糖降下剤を用いても十分得られない時は「インスリン注射」の適用となります。なお、しばらく注射して膵臓を休憩させると、その後インスリン注射を止めても膵臓からのインスリン分泌が回復してくることは時にあります。一生インスリンを続けるとは限りません。この場合は、悪循環を一旦断つということが、早く良好な状態に戻す契機になっています。一生インスリン注射を必要とする場合もあります。私は糖尿病の管理には特に力を入れていますが、目処が立たないのに今までのパターン(効果が乏しくなった生活や薬剤)を変えようとしない方には良い手がありません。
最後に、糖尿病と診断された人でも血糖の良い管理が維持できれば、糖尿病でない人と何ら変わらない人生が送れます。ただ、管理の維持にご苦労が多いのは確かです。
 () 最近は、新しい機序の糖尿病の薬剤が複数利用できるようになり、格段に管理がし易くなってきています(2016年6月)。